木造住宅の佇まい

     一つの建物を紹介します。以前、住んでいた所のすぐ近くにあった木造の住宅です。敷地に沿って垣根と塀があり、石段を少し上がると棟門がある立派な邸宅。外からですが、きれいな庭木、屋根の破風は銅板巻きで保護されて、けらばの袖瓦には瓦どめの金具が設けてあり(特にここは足立山に向かって吹き上げる風が強い)、目立った汚れもないなど、きっときちんと建物の保守や手入れが施されているんだろうなと容易に想像がつきます。そして、なんとも足立山や空を背景にしたこの佇まいが美しい。

    この美しさはなぜなんだろうか。
    屋根に注目してみます。手前から下屋があって棟の位置をずらしながら1階の屋根につながり、そして2階の屋根。2階は直接はつながってはいませんが、それぞれが同じ勾配の屋根のため連なって見える。そこには、いくつかの面が群になった時の美しさがあり、しかも、その勾配(おそらく4寸勾配)が足立山の稜線に合っているという相似した風景がいいのではないだろうか。
     もう一つ踏み込んで、この連なりの美しさは、どうして?を考えてみると、ちょっと抽象的ですが「プロポーション」。従来の木造は尺貫法を単位にして、柱間約900mm=半間(はんげん)をモジュールにして造られています。この規則性も起因しているように思うのです。下屋から1階の屋根へは、平面的におそらくたてよこ半間づつずれているのではないだろうか。すべての平面がこのモジュールに合わせて造られていて、そこに屋根がかけられている。つまり、ある規則性で平面や高さの寸法がきまっているのでその統一感が現れてきてここちよく感じるのではないかということ。
     それと、もう一つ。2階部分や折れる部分は別として、高さが変わるけれどもできるだけ屋根面はシームレスでつながるということころです。風雨の多い日本の気候を考えるとできるだけ切れ目や段差のない一枚の面でつくることで雨漏りのリスクを減らす。軒も下げて風を逃し、同じ面にして厄介な雨水を素早く外へ逃してしまう。それは、風雨に逆らわずに巧みに住まう先人の知恵で裏付けられた理にかなったデザイン=機能美とも言えます。

    随分前に見つけた住宅ですが、発見も多く、影響を受けた建築の一つです。

    ※ HHI「三連屋根の住宅」はこのデザインの考え方を引用しています