特別養護老人ホーム60床(内10床はショートステイ)の計画案の紹介です。敷地は、住宅系の用途地域で高さ10mの制限がある区域で周囲は戸建の住宅が建ち並んでいます。そこで、案は3階建も含めいくつかあったのですが、敷地の形状を最大限に活かし、周囲の住環境に適したスケールを意識した2階建てを基本として、どんなことができるかを考えてみました。

老人ホームの入所者の居室は、4人部屋に代表される多床室いわゆる従来型と言われるタイプから一人部屋の個室へ変化し、10人前後を1グループとしたユニット型へと変化してきた背景があります。ユニットの内容は、居室のほか居間や食事、憩いの場所となる共同生活室そしてトイレといった生活機能上必要な諸室で構成され、10前後の個室が共同生活室を囲むようなクラスター型平面が一般的です。ただ、この1ユニットごとにきちんとまとまった状態や居室と共同生活室が直接的につながってしまう関係に違和感を感じることも少なくありません。

そこで、計画にあたって考えたことは、1つのユニットにおさまらない広がりのある環境づくり。ユニット型のプランを基本に、入所者の方が隣のユニットやその隣のユニットへ移動できたり、或いは時には外に出れたり、入浴をするにも一つのユニットという領域から出てあたかも銭湯に行くように一歩外に出て用事をすませるようなことができないものか。住み慣れたまちの中の自宅では、当然のように家から外に出て用事をすませたり、用事は特にないけれど散歩をしたり、その時にご近所さんにバッタリあって立ち話をしたり、自由でいろんなことに囲まれています。そんな何気ない当たり前の日常が再現できないものか、そのことが豊かさにつながるのではないかと考えた訳です。

まず、居室の前には路地に見立てた廊下をつくりました。回遊性があるので、内部から外へ、外から内部へつながったり、外部吹き抜けに接する場所を巡り、景色や風や光の変化に接することができます。食事や入浴の場所、お隣のユニットもこの路地に連なっている。外と内部というと関係のほか、どこかにつながる閉じない回遊性やその路地に連なる出来事が期待できる界隈性を持たせることで、多様な関係性を散りばめたのです。さらに、この路地の回遊性は、上下移動の難しい入所者の非常時の水平避難にも機能します。

それから、食事や居間空間となる共同生活室に接するように閉じない中庭や外部吹き抜けをつくりました。個室というプライベートな空間から、路地や共同生活室を介し、その外部空間にふれ、その視線は水平、垂直、多方向に延長していきます。外部は閉ざされた中庭ではなく、建物の近傍や敷地の周囲、それから敷地周辺さらにはまちへ接続し、広がりのある景色が望め、バリアのないつながることへの期待感が持てるようにしました。施設内の広がりから周辺への広がりもあわせたきっかけづくり、環境づくりということです。閉じない庭は、機能的にも採光や通風、集中豪雨時の雨水の排水性能にも役たちます。

施設という人を受け入れる器は、高齢者施設のみならず託児所や保育園など子どもたちの児童施設など多岐にわたります。そんな施設で感じることは、自宅から施設という場所へ移り住み、または通った時のその環境の変化つまりギャップによる精神的また身体的な負担が大きいのではないかということです。それは、自宅とは違うその建物や空間のスケール感だったり、集団化することによるヒトやコトの密度だったり、自分の落ち着いた場所を見つけられなかったり、いろんなギャップに起因していると想像します。2階建ての特別養護老人ホームの提案では、介護度の高い方々がユニットを横断するように自由に行動できるようにするためには、ユニットは入居者を介護サポートする運営側の単位でもあるため、見守りや付き添いのソフト面に大きな課題が残っています。そのため、建築というハード面だけでは不十分で成立しません。ただ、今回は建築面からのアプローチとして、従来のクラスター型の形態をさらに発展させ、いろんなギャップを緩和させて日常にゆるやかに馴染んでいく施設として提案しました。