敷地は、長方形の形状をなし、長手の両面が河川に沿った桜並木の遊歩道と道路に面しています。桜並木の風景を取り入れることとプライバシーを守るという相反する条件を両立させることがクライアントの大きなご要望で、設計上の重要な課題となりました。そこで、住宅全体をコートハウス形式とする答えを導きだし、東方向に当たる桜並木の景色を取り込むために、東庭と居室の配置や軒の深さ、外構のコンクリート打放し塀の高さを慎重に決め、外からの視線を遮った広がりのある桜の借景を実現させました。コートは、東庭だけにとどまらず、南庭やバスコート、サービスコートなどの外部空間を配置して、囲まれながらも開放的で使い勝手にも配慮した内部空間をつくりあげました。
(ページの最後に詳しい説明を追記しています)

  • 所在地:福岡県北九州市
  • 用途:専用住宅
  • 家族構成:夫婦+子供2人
  • 階数:地上2階
  • 構造:木造一部鉄骨造
  • 設備:全熱交換型換気(外気負荷低減)
  • 撮影:イクマ サトシ
  • 備考:第27回 福岡県美しいまちづくり建築賞 佳作、九州の建築家とつくる家(建築ジャーナル)掲載

SHN桜並木を望む住宅の初回打ち合わせから竣工までの軌跡
Twenty three(建主さんのBLOG)

環境を尊重する

 建築場所は、帆柱山に源を発し洞海湾へ注ぐ金山川沿いで、都市公園「瀬板の森公園」を中心に良好な市街地環境形成をはかる地区計画の住宅専用地に位置します。敷地は、東側を金山川、西側は静かな生活道路に接しています。特に金山川界隈は、30年程前の河川整備工事で植樹された桜並木と遊歩道が整備され、地元による河川愛護活動もさかんで美化清掃活動や各種イベントの開催、両岸の遊歩道は花のボランティア公園として花壇に季節ごとの花が彩られるなど、地域の方々に育まれ親しみある環境です。


 計画にあたって、建築主の住宅や生活への想いを実現させることとこの周辺環境を尊重しながら住宅はどう向き合うべきかを大きなテーマとしました。まずは、敷地が充分な広さであったことから、建築主からの平屋建てのご要望も相まって周辺から遊離することのない建物の高さをおさえた水平方向にのびのびした建築を思い描きました。
 住宅の形態は、一部2階のほぼ平屋とし外壁をセットバックさせ、東西両面を軒方向とした大きな切妻屋根で全体を覆ったもの。その軒高さは、出来るだけ低くすることで夏期の斜光受面を少なくし、周囲への視覚的な圧迫感を抑えることにしたのです。特に川側は、遊歩道から花壇、コンクリート打放し塀、東庭、軒下空間とし周辺と内部までをなだらかな断面で連続させ、外部仕上げも外壁の鏝押えの漆喰系塗壁や補修なしのコンクリート打放し塀で表情のある素材を用い、量と質のグラデーションで周りの環境と住宅の存在を凹凸なく馴染ませることにしました。
 平面計画は、プライバシーを守りつつ開放的であることを念頭にいくつかの中庭をもつ形式。「桜並木の借景や開放感を重視した東庭」や「主な採光面で門から玄関までの露地空間となる南庭」、「プライベートなバスコート」など場面に応じて配役させた外部空間が存在します。家族が集い生活の要となるファミリースペースは東庭と南庭に挟まれて、風や光、眺めが十分に取り込める場所とし、諸室はこのファミリースペースを中心に機能的なつながりを保ちつつ、周囲の風景や庭との関係を開口部の位置やサイズで調整しながらその場に相応しい室内空間に整えました。将来に家族が増えた場合やゲスト用に備えた2階予備室は、川の水面や桜並木、行き交う人、遠景の瀬板の森が望め1階とは異なった風景を享受します。
 軒高をおさえながら水平にのび、周囲になだらかに接続する建築の構えは、周辺の環境に向き合うというより寄り添うような姿を連想させます。また、住宅には、隅々まで自然や風景の恩恵をうけることによって、外部環境と生活が切り離しにくいやわらかい結びつきを潜在させました。この計画を振り返り、こしうした寄り添う姿勢と隅々にまで行きわたる外部との結びつきによって、周りの環境を尊重したここでの住まいのあり様を示すことができたと思っています。

断面図
基本設計時の全体模型 S=1/100
ファミリースペース回りの詳細模型