敷地は福岡市南区西鉄沿線から一筋入った通りに面した角地で、沿線沿いのマンションやテナントビルといった中層建築物群から戸建て住宅が建ち並ぶ静かな住宅地に変わり始めるような場所に位置しています。プランは閉じない中庭を持つコの字型のコート形式。中庭は、内側の生活空間からも望め、そして周囲に対しては住まいの温かさや庭の様子が垣間見える「まちの中のニッチ」の様に位置づけました。この環境のもと、ご家族の生活とまちとの距離感を想像しながら、プライベートな生活と開放感のバランスを建築化しています。
※ページの最後に詳しい説明を追記しています
- 所在地:福岡県福岡市
- 用途:専用住宅
- 家族構成:夫婦+子供3人
- 階数:地上2階
- 構造:木造
- 設備:ヒートポンプエアコン(一部床下エアコン)
- 撮影:Omori Kyoko
- 備考:第35回福岡県美しいまちづくり建築賞 最終選考作品
「TECTURE MAG」掲載
周辺環境を見直して
建主はご夫婦と子ども三人の家族構成で、敷地は奥様の地元でお父様が営んでいた事業所のあった場所。福岡西鉄沿線の中高層の商業ビル群からマンションや戸建住宅が混在するエリアに位置しています。設計にあたって、ご家族は以前から近くの賃貸住宅に住み、慣れ親しんだ場所でもあったため、当初は最終案よりもっと開放的な住宅のあり方を模索していました。しかしながら、将来の沿線ビルの更新や周辺住民の流入出などの環境の変化を踏まえるともっと順応できるかたちがあるのではないかと軌道修正し、移りゆく周辺環境と住居の個の部分を家族固有のバランスでどう関係づけていくか、これまでよりもこれからどう周辺に向き合っていくべきかを再考し、提案させていただくことにしました。
生活の一部で周辺の一部でもある閉じない中庭
最終の平面プランは、プライバシーを優先しつつも、一面を開放させた閉じない中庭を持つコの字型。中庭は、室内からも望め、周囲に対しては庭の様子のみならず住まいの温かさが垣間見える「ニッチ(くぼみ)」の様に位置づけました。一つの庭ではあるものの、生活の潤いや心に残るような街並の風景の一つになって欲しいこと、建主家族の子育て中の現在から高齢になる将来に渡ってまちや地域の方々に見守られるような周辺との繋がり方を体現しました。
中庭回りを要に全体に渡って、ご家族固有の周辺との距離感を建築化しています。大小のボリュームの構えや中庭側に突き出た外壁(袖壁)、建主のご要望でつくった透かし積みの煉瓦塀は、通りから近づくにつれて徐々に中庭側に視線を通し、通りすぎる前後はその視線を遮ってくれます。正対して視線が通ったとしても正面は廊下の外壁面であり両脇の居室空間への視線はやわらかくそらします。また、外観を特徴づける外壁は金属板の平葺きで表情をつけ、明るい色彩によって親しみを感じてもらえるような程よい他者との距離感を意識しました。
均整のとれた住宅に
外観上の大きいボリュームには1階がファミリースペース、2階は小屋裏を利用した立体的な子ども室や小屋裏収納を設けています。片方が高くなる片流れ屋根の特性を活かし、縦方向に空間を補完しました。一方、小さなボリュームは、離れ的な和室や浴室等の水回りの小間で構成し、小さな容積に相応しい内部機能で整理しました。外壁素材について、外周は風雨を遮る軒がない代わりに耐候性のある金属板を採用し、平面形状は敷地境界近くまで広げられました。中庭回りは軒を出しバルコニー等の中間領域をつくり、風雨から守られた状態とし、やわらかさやまちへの景観的潤いを期待して植栽や土壌のウェット感に似合った吹付材を選定しました。生活機能を満たすことやメンテナンスの負担を減らすこと、周辺環境への配慮という要件に対し均整のとれた建築を目指しました。
竣工後2年が経ち、中庭に植えたヤマモミジは順調に生長し、その中庭を介し家族の生活の様子がにじみだしコミニュケーションのきっかけになっている様子を建主さんより伺い、ここで思い描いた住まいの有り様が実を結びつつあることを実感しています。
変更前のスタディ模型 変更後のスタディ模型
中庭まわりの詳細模型 子ども室の小屋裏までの立体的利用の検討
2022 夏 2022 冬