ちひろ美術館・東京
先日は、内藤廣設計事務所さん設計の「ちひろ美術館・東京」を見学しました。
真夏日の日曜でしたが、現地は風が吹いて大きなケヤキの枝葉が揺らぎ、その日陰で覆われた涼しいアプローチ空間が迎えてくれました。周りは住宅地で低層の建物群の中に、小さな森の中の美術館といった落ち着いた佇まい。
築20年近く経っていますが、メンテナンスも行きとどいいてるのか特に違和感を感じる傷みや部分的に手当てした妙な新しさも見当たりません。中庭の茂みの雰囲気と同じ歩調で建築も年をとっていったようなそんな景色。外壁のあずき色の板金のたてハゼ葺きも艶がなく、ハゼも建物のスケールに合わせたような小刻みなピッチ、杉板型枠のコンクリート打ち放しも程よい不均質さで、全くキラキラしたような気取った感じがありません。
2メートル程の絞り込まれた間口のアポローチ。ちょっと低すぎるくらいのエントランス庇。美術館規模にあったサイズとは思いますが、人の流れが過度にならないように動線を整える意図のようにも感じます。
エントランスホールから展示ホールの通路空間にあるカフェ。広がりのある中庭の眺め。
全体は大きく4つの棟がありホール状の渡り廊下でつながります。その4つの棟で2つの中庭を囲むような配置。それぞれの棟は矩形でない台形や三角形などの変形した平面形状でかつ規則的な並び方ではないので、中のホールや展示室、外のテラスや庭も変形しており、その場所場所で空間が刻まれ、そして有機的につなげられています。
中庭の外部と内部階段の両面の吹き抜けのある開放的なホール空間。
建物のほぼ中心にある渡り廊下からみえる二つの中庭の景色は、各棟のそれぞれの角度ある外壁で囲まれ、視線が閉じず連続するような延長する眺めです。延長した先は近隣の住宅ですがケヤキの木の枝張もあってなんとなく隠されている。ここにいると、現実的な世界とは適度に切り離されていて、「いわさきちひろ」の世界に自然と入り込めるゆったりとした時間が流れているような気がします。
いわさきちひろの作品は、子どもたちの描写がほとんどで、絵本だから描くキャンパスも小さい。美術館の規模は大きくなく、建物は変形した形状で刻まれた内外の空間で積み連なっています。ここには、ちひろ美術館としてその作品のスケール感や世界観にあった空間や建築がありました。また、各棟の傾斜をつけた表面積のある建物の形態とパズルのようにその形態に当てはまった外部空間が、あたかもちひろの作品にあるにじむような描法のように、内外が混じり合ったような関係で成り立っているようにも思えました。